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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)1394号 判決

大阪府大東市深野北一丁目七番八号

控訴人

大塚攘治

右訴訟代理人弁護士

露口佳彦

右輔佐人弁理士

杉浦俊貴

大阪府豊中市原田中一丁目一六番六号

被控訴人

日本ダイスチール 株式会社

右代表者代表取締役

竹内孝之

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

右輔佐人弁理士

安村高明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人の被控訴人に対する特許権に基づく製造販売差止請求を棄却した部分を取り消す。

2  被控訴人は、原判決添付の別紙物件目録(1)及び(2)記載の各紙器打抜き装置における打抜き屑の外脱装置に取り付ける雄木型と雌木型とを製造、販売してはならない。

(控訴人は、原判決中控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求を棄却した部分については、不服の申立てをしない。)

3  訴訟費用は、第一、第二審を通じ被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決事実及び理由欄第二(原判決添付の別紙物件目録及び特許公報を含む。)記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  争点に対する当裁判所の判断

当裁判所も、争点1(間接侵害の成否)について、被告物件は本件発明にかかる紙器打抜き装置における打抜き屑の外脱装置の生産にのみ使用されるものとはいえないと判断するものであり、争点2(構成要件A5に関する均等の主張)について、被告物件の構成a5が本件発明の構成要件A5と均等の関係にあると評価することはできないと判断するものであるが、その理由は、次の一ないし四のとおり付加訂正するほか、原判決事実及び理由欄第三の一及び二説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一二枚目表五行目の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人は、右乙第五号証には、紙器打抜き装置における打抜き屑外脱装置において、基本的には上部機構(上部プラテン)が水平動し、下部機構(下部プラテン)がいわゆる垂直面に円弧を描きつつ上下動するものが、乙第六号証には、基本的には上部機構(プレート)が垂直面に円弧を描きつつ上下動し、下部機構(下部テーブル)が水平動するものが記載されているのみであって、上部機構及び下部機構がともに上下動するものは記載されていないから、本件発明で問題となる、上部機構及び下部機構がともに上下動する両面可動型は本件発明の出願当時公知ではなかったと主張するが、乙第五号証、第六号証いずれのものも両面可動型の打抜き屑外脱装置であることに変わりはないのみならず、乙第五号証のものは、上部プラテンと下部プラテンがともに上下方向に運動しつつ同時に水平な往復運動をする装置であり、上部機構及び下部機構がともに上下動するものであることが明らかであるから、右主張も採用できない。」

二  原判決一三枚目裏八行目の「グリッパー」から一〇行目の「シートの反りや振れが」までを「シートに反りや捩れがある場合にはシートが」に改め、一八枚目表五行目の「スポンジ体」の前に「原告が自由端であると主張する」を、一〇行目の「ものではなく」の次に「(右構成要件A5、及び『彎曲した板ばねをその自由端が取扱い物品の移動方向に位置するように突出部よりも浮出させて基端部で定着し』〔公報三欄三四ないし三六行目〕、実施例についての『押型1は上部の機体に底面を下向きにして板ばね7自由端及びシート移動用掴持側Aが製品部分送り出し側になるように固定し』〔同五欄三〇ないし三三行目〕との各記載によれば、本件発明においては、板ばねの構造上当然に、板ばねは基端部から移動方向(水平方向)に延びてその自由端が製品部分送り出し側にあるものと解される。原告は、被告物件におけるスポンジ体の下面と基板の底面に貼着されている面(スポンジ体の上面)とが移動方向(水平方向)に対して直交する方向(垂直方向)に形成されているというならば、本件発明においても、(当然ある程度の幅を持っている)彎曲板ばねの幅の面は移動方向と直交する方向に形成されているといえなくもないのであって、要するに、そのようなある程度の幅を持った面を持つ物体であるシートの面に接する彎曲板ばねの自由端の平面とスポンジ体の下面が移動方向に沿っていれば、ともにその自由端が取扱い物品の移動方何に位置していると認めるべきであると主張するが、本件発明における板ばねの自由端及び移動方向の意義についての前示説示に照らし、到底採用できない。)」を各加える。

三  原判決一八枚目裏一一行目の「ただ、」の前に次のとおり加える。

「控訴人は、現実に打抜き装置に使用されるシートが急角度で折れ曲がっているとか極端な反りや捩れを有することは全くありえず、反りや捩れは緩やかなカーブをもってシートの一部が水平方向と異なる状態にあるにすぎず、この場合には、スポンジ体の前面がシートの移動方向と平行な方向(水平方向)に伸縮してシートに対して移動方向と反対側へ押し返す力を作用するというような当接の仕方をするのではなく、シートはスポンジ体の前面と下面とが交わる線にある角度をもって当接するのであり、スポンジ体は移動方向に対して斜めの角度に角切りのような形で収縮し、彎曲板ばねと同様にほぼ斜めの方向に押し返す力を作用させてシートを垂直方向側に押圧しながら円滑に移動方向に移動させるのであって、このことは、検甲第一一、第一二号証によって明らかであると主張するが、前示のとおり、従前の打抜き屑外脱装置においては、「段ボール紙を用いる打抜き箱の場合、その材質、種類、表面加工等によってシートに反りや捩れが生じやすいので、これを打抜き部から打抜き屑外脱部に横送りする際、外脱用型にシート端縁が引掛かって定位置に達する前に製品部分が抜け落ちたり(中略)する事故が起こり易い。」という欠点があった(公報二欄一九ないし二六行目)ので、本件発明においては、「板ばねは、シートが打抜き部から打抜き屑外脱部へと移行するときに、反りや捩れがあっても押型の突出部に接触するのを防止するのに役立っている。」(同四欄一四ないし一七行目)というのであって、すなわち、紙器打抜き装置では、打抜き工程において打ち抜かれたシートの端縁が反り上がって外脱装置の押型の突出部に当接し、定位置に達する前に製品部分が抜け落ちるという事故が生じやすいというのであり、この欠点の解消のために、本件発明においては、打抜き工程には格別の改良を加えることなく、打抜き屑の外脱装置において前記のような彎曲板ばねを設けることによって、右のように反り上がったシート端縁と押型の突出部との当接を避ける構成を採用したものと解され、また、検甲第一一、第一二号証は、現実の紙器打抜き装置により紙器を打ち抜いた実際のシートを用いたものではなく、控訴人の主張の裏付けとなるものではないから、右主張は採用することができない。」

四  原判決二〇枚目裏五行目の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人は、乙第一号証及び第九号証に記載されているのは、本件発明の対象とする紙器打抜き装置における打抜き屑の外脱装置に対応するものではなく、紙器打抜き装置におけるプラテン装置(打抜き装置)に対応するものであるとして、打抜き屑外脱装置に関する公知技術として挙げるのは不当である旨主張するが、スポンジ体を突出部(鉄製薄板)の下端より浮き出させて設ける目的の一つはスポンジ体の反力作用にあり、このことは、紙器打抜き装置における打抜き屑外脱装置であっても紙器打抜き装置における打抜き装置であっても変わりがないから、採用できない。」

第四  結論

以上のとおり、争点1についても、争点2についても控訴人の主張は採用しえないから、いずれにしても被控訴人による被告物件の製造販売は本件特許権を侵害するものとはいえず、控訴人の本訴請求は理由がない。

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、差止請求を棄却した部分に関する本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 水野武)

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